それは、だんだんと日差しが強くなり、暑さが増してきた初夏のある日のこと。
私は家の中で、赤ちゃんに授乳をしていました。
静かな部屋に、突然「ピンポン」とインターホンが鳴る。
我が家はオートロック。それなのに、鳴っているのは玄関のドアのインターホンでした。
「授乳中だから動けないし……」
以前、お隣の子供がいたずらで鳴らしたこともあったので、私は特に気に留めず、そのまま授乳を続けていました。
その、数分後のこと。
ーー ズドン。
嫌な音とともに、部屋の電気が一斉に消えました。
ブレーカーが落ちたのかな? と思った私は、急いで窓を開け、下を覗き込みました。
すると、1階に見慣れない業者の男性の姿が見えたのです。
「すみません!急に電気が消えたんですが!」
窓越しに大声で声をかけ、私は赤ちゃんを抱えて慌てて階下へと降りていきました。
「まさか」が現実になった瞬間
息を切らせて業者の男性のところへ行き、事情を聞くと、彼はあからさまに気まずそうな顔をしてこう言ったのです。
「電気代が支払われていないので、止めました。さっきのピンポンに応答してくれたら立ち会えたんですけど……もう落としちゃった後は、どうしようもないです」
頭が真っ白になりました。
電気代が、未払い……?
嘘でしょ? まさか、そんなことってある?
「小さな子供がいるんです。どうにかなりませんか?」
必死に食い下がりましたが、業者の人は「無理です」の一点張り。「支払いが確認できたら、また電気を通します」と言い残し、去っていきました。
エアコンの切れた室内は、だんだんと熱気がこもり始めます。
家の中にいるのは危ない。そう判断した私は、まだ小さな我が子を連れて、這うようにして車へと逃げ込みました。車のエアコンをかけて、なんとか一息つきながら、震える手で元夫に何度も電話をかけました。
のらりくらり、すり抜ける男
ようやく繋がった電話の向こうで、元夫の反応は驚くほど他人事でした。
「あー、あれね。あとで払っとくから」
焦る私をよそに、言い訳ばかりでのらりくらりと言い逃れをする彼。
今振り返れば、この時にもっと彼の「お金に対する異常さ」を疑うべきだったのだと思います。まさか電気代すら払っていないなんて……。
だけど、当時の私はまだ、彼のお金のルーズさがどれほど深刻なものなのか、本当の意味で気づいていませんでした。
ただの「うっかり」だと、信じたかったのかもしれません。
ーーこれが、我が家が崩壊していく序章だとも知らずに。
この後、事態はさらに悪化し、クレジットカードまで使えなくなる事件へと続いていきます。

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